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【連載】 国際問題と日本の選択
拓殖大学特任教授/安全保障スペシャリスト  森本 敏

もりもと・さとし
1941年生まれ。防衛大学校卒。防衛庁、外務省、野村総研主席研究員、拓殖大学海外事情研究所長兼同大学・大学院教授を経て現職。その間2012年6月より12月まで防衛大臣歴任。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。近著に「武器輸出三原則はどうして見直されたのか」(海竜社)など多数。

ロシアの反転攻勢―ウクライナ・中東への軍事介入による秩序変更

国際情勢全体の不安定要因を生み出しているのは冷戦期以降、相変わらず中東・湾岸と東アジアである。しかし、その性格は冷戦期と比べて構造的に大きな違いがある。

その第一の要因は冷戦期と異なり、中・ロが協調して米国に対抗していることである。第二の要因は中・ロが共に力を行使して国際秩序の現状変更を試みていることである。特に、2014年初頭以降の中・ロによる力を行使した政策が情勢を一層不安定にしている。第三の要因は中東・湾岸に中・ロが影響力を広げ、サウジ・イランの覇権競争が明瞭となるに伴い米国の存在が後退気味にあることである。イスラム・テロのような新たな要因が加わったこともある。

一方、変化していない要因は国連が十分、機能していないこと、地域的枠組みは有効に作用していないどころか分裂気味にあることであろう。

このような状態になった最初の事案はウクライナ情勢である。2014年2月、ウクライナでヤヌコビッチ大統領が解任され首都キエフで大規模デモが発生したのを契機としてロシア軍がクリミヤに介入し住民投票を経てロシアが同地を併合した。更にロシアは東部2州の親ロシア派勢力を支援し、5月にはポロシェンコ大統領が選出されたものの、ロシアが軍事介入したことがマレーシア機墜落事件を招き、ロシアへの各種制裁が行われた。ロシア経済は経済制裁や油価低落もあり低迷しているがプーチン大統領への支持率は高く、その背後に冷戦終焉後の混乱期に米国など西側に好きにされた恨みや「アラブの春」現象後の反米感情が広がっていることは否定できない。

一方、イラク・シリアでいわゆるイスラム国の攻勢が広がってきたのも2014年以降であるが、米・英・仏人のジャーナリスト殺害なども起こったため、イラクで2014年8月以降、米国始めNATO諸国が有志連合を編成して航空攻撃を始め、地上作戦は米軍特殊部隊がイラク軍への訓練支援を行ってイスラム国に攻勢をかけてきた。一方、シリアでも2014年9月以降、米英などと中東スンニ派諸国の有志連合で航空攻撃を始めたが地上作戦に従事する勢力の編成に手間取り、現在はトルコ国内においてシリア穏健勢力の訓練支援を米軍が進めている。

この事態が急変したのは、2015年9月末からロシアがシリア航空攻撃に参入してきたことによる。ロシアの狙いは明確でシリアのアサド政権の勢力回復を達成してシリアを介して中東・湾岸への影響力を広げるということであろう。国際社会から制裁を受けて後退していたかに見えたロシアの反転攻勢である。シリア内のイスラム国を狙っている振りをしてシリア内の穏健派反体制勢力をロシア軍の最新兵器を投入して航空攻撃を繰り返している。

2016年1月から始まった国連仲介の停戦交渉でもアサド政府側はロシアの軍事的援護を受けて強気であり、アサド大統領の再出現を望まない米国とロシアの確執は深く有効な停戦合意が出来る可能性は高くない。ロシアは最新兵器の威力を示威して無差別攻撃を繰り返しているが国連安保理決議が通るわけでもなく、法的な制約もない。

ロシア軍にとっては1989年のアフガン戦争撤退以来の実戦であるが、この力を誇示した軍事作戦を背景にしてイランや中国との軍事協力や兵器供与を進め、サウジとも原子力協定を締結して原発計画を進めるなど精力的に中東・湾岸に介入している。米国はロシアが国際社会におけるリーダーシップをとることを食い止めようと精力的に外交を進めているが、中・ロは反米共闘を組んでおり、欧州諸国も中国への脅威感は低いという状況に加えてロシアには友好的な側面もあり、米国が思うように国際情勢は動いていない。

中国の南シナ海・東シナ海での不法活動―海洋進出による秩序変更

中国が南シナ海の陸地埋め立て、東シナ海のガス田建設を急速に進めてきたのも2014年初頭以降である。その背景には中国が2012年の日本による尖閣諸島国有化以来、国内に領有権問題への強硬な対応を求める世論が起きていること、2013年以降の米中首脳会談において米国が南シナ海を含む海洋における自由航行の権利を明確にしてきたこと、アセアン諸国の対応が中国にとって妥協できない状況になってきたことなどあるものと考えられる。

中国は南シナ海における7つの島嶼に埋め立てを進めているが、海洋権益保護だけではなく、南シナ海と東シナ海を含む第一列島線内における戦略的態勢を固めるために不可欠な建設計画と受け止めたに違いない。中国は古代からの領有権を主張して譲らず、アセアン諸国や日本とは領有権を巡って、米中間では海洋における航行の自由という国際法上の権利を巡って大きな論争事態を迎えている。

米国のイージス駆逐艦が2015年10月に南沙諸島、2016年1月に西沙諸島の中国が占有する島嶼の12海里内に無害通航を行い、中国は違法行為と非難したが、米国は領有権問題に特定の立場をとらないものの、南シナ海における中国の島嶼に対する領有権を認めておらず、従って、その島嶼の12海里内を無害通航することは国際法ですべての国に認められる権利とみて自由航行作戦(FON)を行っている。

他方、中国は南シナ海における領有権を主張しており、中国の領有する島嶼の12海里内を航行する外国の軍用艦船は中国の国内法である1992年の領海法に基づいて中国政府の許可を受けるべきとの立場である。米中双方とも妥協しないので今後も同様の事態が起こるであろう。

それよりも深刻な問題は中国が南シナ海におけるアセアン諸国の占有する島嶼を、力を行使して奪取してきたことであり、こうした力による現状変更は国際法の趣旨に反するものであり、アセアン諸国は今までかかる事態を回避・防止するためにCOC(行動規範)の合意に向けた外交努力を行ってきたが未だに実現しない。

また、北朝鮮の核実験やミサイル発射実験でも中・ロは同調して北朝鮮に対する強い対北朝鮮安保理制裁に反対している。中・朝関係は良好とは言えないが、北朝鮮体制が混乱し崩壊することは中国の国家安全保障上、許容できないのであろう。他方、中国は国内経済問題もあり日本とは徐々に関係改善に向けた動きを見せ始め、韓国もこれに呼応して日韓関係改善に動き始めているが、北朝鮮を巡る動きは鈍い。

日ロ関係については、プーチン大統領は対日関係にうまく対応しているがロシア政府は北方領土問題についてかなり厳しい対応を示しており日本は戦略的忍耐が求められる。日米同盟は歴史的に見ても最も良好な関係にあるが、米ロ関係は国際社会の諸問題を処理する場合の障害要因になっており、日本としては両国に関係改善を働きかけることが求められる。

いずれにしても、国内政治の延長上にある国家間の諸問題をすぐに解決することは困難であるが、重要なことは国際法に基づく国際秩序維持のために平和的に解決する外交努力を続けることである。

また、国際法上認められた公海上における多国間演習・訓練には積極的に参加するなどの国際協力を進めるべきである。アセアンを始めとする友好国やパートナー国と共にCOCの実現に向けた努力に積極的に参加することも必要である。米国がアジア太平洋において維持しているプレゼンスは地域の平和と安定のために極めて重要な役割を果たしていることを認識し、平和安保法制の履行を含め米国のリバランス政策を支援するために同盟国としての役割を果たすことが何よりも重要な地域に対する貢献であることを忘れてはならない。

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