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【連載】 国際問題と日本の選択
拓殖大学特任教授/安全保障スペシャリスト  森本 敏

もりもと・さとし
1941年生まれ。防衛大学校卒。防衛庁、外務省、野村総研主席研究員、拓殖大学海外事情研究所長兼同大学・大学院教授を経て現職。その間2012年6月より12月まで防衛大臣歴任。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。近著に「武器輸出三原則はどうして見直されたのか」(海竜社)など多数。

2016年の展望と日本の役割~機能不全に陥っている国連

第1次大戦後に、国際社会は悲惨な大戦を再び繰り返さないため国際連盟を作った。国際連盟規約は人類史上、初めて国際法によって戦争を禁止するという意味で画期的なものであったが、その定義も措置もあいまいで、これが第2次大戦発生の背景要因の1つになったともいわれる。従って、第2次大戦後に作られた国連は戦争より低レベルの武力の行使、武力による威嚇も禁じ、これを認定し必要な措置を決める権限を国際安保理にゆだねた。

しかし、国連安保理の常任理事国(P-5)に拒否権を認めたことで、国連による国際社会の平和と秩序を維持する構想は崩壊した。P-5は自国の国益が直結する紛争に拒否権を発動して国連安保理決議が通らなかったからである。冷戦期のハンガリー動乱、プラハの春、冷戦後は、枚挙にいとまがないが、現在でもクリミア・ウクライナ情勢、南シナ海、いずれも武力の行使か武力による威嚇が行われているのに安保理決議は通らない。シリア情勢でも昨年末の安保理決議は、米ロ間の調整結果を安保理が認定したという役割しか果たしておらず、これでは国連が機能しているとは言えない。

国際秩序の変質はロシアが原因

冷戦後になり、幾つかの節目を超えてきたが、現在のような深刻な国際情勢が見られるようになったのは2014年初頭以降である。

ウクライナ議会がヤヌコビッチ大統領を解任し、これを契機として親ロシア派勢力と反ロシア派勢力が首都キエフで激突したのは、2014年2月のことである。これを契機としてロシア軍(非正規兵3万人)がクリミア地方に進攻し、クリミアがロシア帰属を決め、住民投票を通じてロシア編入を選択し、ロシア議会が承認して4月にはクリミア併合を行った。明らかに軍事力を行使し、戦後の国際秩序を破って他国の領域を奪ったのである。ロシア軍は次いでウクライナ東部2州に軍事介入し、いずれも米国やEUなどから各種の制裁を受けることになった。それでも、プーチン大統領への支持は上昇傾向にある。

一方、2014年春頃から深刻化したイラク・シリアのISILの動向は同年9月末からロシアがシリア空爆に参加してきたことにより局面が大きく変わった。これによりシリアのアサド政権側は優勢に立ち難民流失が増え、ロシア‐トルコ関係が悪化した。ロシアはシリア内に巡航ミサイル・戦略爆撃機などを運用し、兵器システムの実験場にしている様相もみられ、また、S-400対空ミサイルの配備は有志連合軍の航空活動を著しく制約している。

ロシアはシリアに軍事介入してアサド政権を立て直し、この地を戦略拠点にして米国の影響力を排除し、中東におけるリーダーシップを取り戻すため起死回生の反転攻勢に出ている。

昨年末に、シリア情勢について安保理決議はできたが、停戦の対象も不明確で、アサド政権の再来をねらうロシアと、これを認めない米国の確執は続いている。

中国のやり方はロシアより奸佞

南シナ海も2014年初めから中国が南沙諸島の人工島埋め立ておよび、インフラ整備に専念し、アジア・太平洋諸国の懸念表明にも耳を貸さず、工事をいまだに進捗させつつある。やがて3000メートル級滑走路と飛行場施設、警戒監視レーダー、通信所、港湾、補給所などのコンプレックスが完成し、能力整備できた後ADIZ(防空識別圏)が南シナ海の9段線に沿って設置される可能性は排除されない。

米国のみならず、日・豪・ASEAN諸国など自由航行を重視してきた各国から見れば、南シナ海における領有権を占有・確保しようとする中国の行動は根拠のない(中国は古代からと主張しているが、証拠を示したことはない)国際法無視のやり方であり、容認できないが中国は断じて手を緩めないであろう。

中国のやり方は今のところ、ロシアのように直接の軍事力行使には至っていないが巧妙、奸佞であり、本質的には相違はない。

国際法に基づく国際秩序無視の行動を、国連安保理の常任理事国である中・ロが進んで行い、国連事務総長も何らの措置をとらないのであるから、国連が国際社会の平和と秩序を維持できるわけはない。EP-3事件のように中国軍が冒険的行動に出ないとも限らないし、また、中国軍の改革によって中国共産党の統制権が強化されつつある人民解放軍の中間司令部が挑発行動を引き起こし、国士的英雄行動を試みないとも限らない。

だからこそ、日本は中国を不要に挑発すべきではなく(中国はそれを待っている可能性が大であるので)、また、日本が先に挑発したという言質を中国に与えるような行動は控えつつ、確実に自国の領域と主権を確保することに専念すべきである。日本の優先順位は、南シナ海ではなく、東シナ海であることに留意しておくべきであろう。

拡大する日本の役割

2014年初頭から始まった国際社会の変動要因の多くは、ロシア、中国によってもたらされ国際秩序への挑戦であるが、今後は具体的な米ロ対立、米中対立や、双方の中間に位置する国々を巻き込むようなリスクの高い事態が発生する可能性がある。また難民流入が欧州の秩序(EU、NATO)を崩壊させ、南シナ海問題はASEANの一体化を融解させつつある。

こうした現象の背景には大国の傲慢な態度の他に深刻な格差や差別・迫害・人権侵害・疎外感などがあり、これが若者をISILに志願させる要因である可能性もある。更に、核兵器使用のリスクもあり核兵器の拡散防止は引き続き国際社会の深刻な課題である。

一方、米国の相対的国力やリーダーシップは後退しているが、米国内には米国が強いリーダーシップを取り戻すべきだという世論が湧き上りつつあり、これが米国次期政権の政策にどのような影響を与えるかを注目する必要がある。いずれにせよ、オバマ政権は本格的な地上戦闘活動ができる状況にはないが、米国が中東から撤退するとは思えず、大規模な地上部隊の派遣をせずに海・空軍で国益を追求する態勢を維持するであろう。価値観を共有する同盟国・友好国は米国への補完的な協力と支援が求められる。

このように国際情勢を展望すると重苦しい緊迫した状況に見えるが、日本としてはこの機会にむしろ新たな役割を求めて強いイニシアティブを取っていく必要がある。

日本は今年、先進国サミットの議長国であり、恐らくシリア・ロシア情勢が議論されることになろうし、また、今後2年間にわたり国連安保理非常任理事国である。今夏には安保理の議長国も回ってくる。TICADにも参加する。日本は米国と共有できる多くの価値観を追求しつつ外交・安全保障面でのリーダーシップを取っていく時期にきている。その成果をベースにして国連改革、安保理改革のイニシアティブを取ると共に日露間の北方領土交渉やASEAN諸国との緊密な関係を基盤として日中、日韓問題を一層進展させることが国益増進につながる。

2016年は国際秩序にとって試練の年になるが、日本にとっては問題解決のイニシアティブを取り得る重要な契機となる年であるし、そうしなければならないであろう。

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