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【連載】 国際問題と日本の選択
拓殖大学特任教授/安全保障スペシャリスト  森本 敏

もりもと・さとし
1941年生まれ。防衛大学校卒。防衛庁、外務省、野村総研主席研究員、拓殖大学海外事情研究所長兼同大学・大学院教授を経て現職。その間2012年6月より12月まで防衛大臣歴任。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。近著に「武器輸出三原則はどうして見直されたのか」(海竜社)など多数。

国際社会の構造変化~世界で何が起こっているのか

昨年春以降、国際社会は底辺から新しい現象が湧き上がっている。それは望ましい動きでなく、国際社会が全体となって取り組むべき重大な課題が含まれている。そして、それに正面から対応すべき国は米国と価値観を共有出来る諸国家であろう。

米国は2016年末に米国史の中で最年長となったアフガン戦争から完全撤廃するつもりだったが、ガニ・アフガン大統領の要望を容れてそれを断念した。2016年以降は約5500人の米軍と少数のISAF(NATO中心の国際安定支援部隊)が駐留することになろう。

米軍はイラクからオバマ大統領の公約通り2011年末に撤退した。昨春頃からイラクに侵入してきたISILに対応するため2014年8月からNATO諸国と共に航空攻撃を開始したが、それだけでは成果は上がらず、地上戦闘を担当するイラク軍(約20万人)の訓練、指揮指導のためにイラク南部に特殊部隊を派遣している。

ロシアによるシリア軍事介入

この1年で、少しイラク軍がISILを北西部方向に追い込むことができたが、成果は不十分である。更に、シリアに逃げ込んだISILを追って2014年9月から米・NATO・アラブの連合航空作戦が始まった。地上戦闘は反アサド勢力である自由シリア軍を支援する形で進められてきたが、成果は上がらず、米特殊部隊がシリアの中に投入されている。

こうしている間、突然ロシアが9月末、シリアへの連合航空作戦を一緒にやると提案してきた。米欧は拒否したが、ロシア軍は9月30日からシリア航空攻撃に加わってきた。狙いは弱体化しているアサド軍の勢力回復にあるが実態は、ウクライナ・クリミアで制裁を受け、封鎖されているロシアの勢力挽回である。

その背後にある政治意図は巧妙で、シリア停戦、アサドと反体制派による和解会議及び大統領選挙を一定の期間に実施する提案を行いつつ、ロシアとしてアサド政権を立て直して、ここを戦略拠点として中東湾岸地域への影響力を拡大する意向であろう。米欧諸国が反対しても、中東・湾岸諸国を納得して実行することになる。オバマ政権はシリア内に本格的な攻撃作戦を実行するとロシア軍と衝突することになる恐れがあり、連合作戦は徐々にシリアから手を引かざるを得ない。

結局、ロシアはイラン、サウジアラビア、エジプト、トルコなどとの緊密な連携をとって米欧勢力の追い出しにかかり、中東にはロシア中心の勢力図ができる。更に、サウジアラビア、トルコ、エジプト及びGCC(湾岸協力会議)諸国などに原発や兵器を売って新しい関係を構築しようとしている。

このような状況を作り出した背景は、間接的にはISILの活動であるが、異なる角度から見るとイランと米欧諸国の核協議合意の持つ意味もある。というのは7月にできた核協議の合意は、オバマ政権の成果である。しかし、米欧諸国には中東・湾岸へのアフターケアが全くできていない。イランの原子力平和利用が認められるのであれば、自国にもその権利はあり、これを行使しようとして中東湾岸の主要国がロシアと原子力協定を結び、原発導入計画を進め始めている。サウジアラビアは原油があり、エネルギー源としての原発は不要であるのに、将来にわたるイランとの関係を考えた判断であろう。

一方、中国も英・仏に多額の融資をして原発を売り込み、原子力開発協力を進めている。急速に進もうとしている核拡散を米国は予測していたであろうか。米国はシェールガス革命以降、中東への原油依存が減り、湾岸地域の安定に協力するといった関心が薄くなっているのをロシアは鋭く読み込んだのかもしれない。

賛否が分かれる難民流入問題

また、このシリア情勢の変化は欧州に別の問題を提起している。それが難民流入問題である。既に欧州への難民流入は2014年に27.5万人、2015年になって既に80万人(11月初)を超えている。EUはこの難民以外に中東・アフリカ、中・東欧から移民の流入問題も抱えており、受け入れ国は必要な措置を取っているが、現状の傾向が続くとEUだけでは管理能力を超える状況になりつつあり、また、EU内も難民受け入れについて賛否両論に分かれており、分裂状態が生じている。

この難民流入の原因はISILによる活動、シリア情勢の悪化などであるが、ロシアのシリア軍事介入によって事態は一層悪化している。欧州が戦争以外の原因で域内の民族自決・社会・経済・治安・安全保障などにこれほどの規模で影響を与えた事例はなかったであろう。まさに欧州の危機ともいうべき事態の出現である。

一方、中国は南シナ海に本格的に乗り出してきた。2014年当初から着手された南沙諸島のうち、中国がかねてより実効支配を進めている7つの岩礁に人工島埋め立てを進めてきた。そのうち3つの人工島には3000メートル級滑走路も建設されつつある。これらは、いずれは空・海軍基地になり、作戦機や防空レーダー・ミサイルシステム・補給所・整備庫・港湾などが整備され、ADIZ(防空識別圏)が設定されるであろう。

米・日やアジア諸国が埋め立て中止・撤廃を要求してきたが受け入れられず、米国は2015年10月に人工島12マイル内にイージス駆逐艦を入れて米中間は緊張関係に入った。米国としては他のアジア太平洋諸国に同調を求めて行動を継続しようとしており、他方、中国としては埋め立てをやめる考えはない。アジア・太平洋諸国、特にASEANは南シナ海問題についてその一体性、連帯が壊れつつある。

今後は、まず、各種の協議、対話を通じて問題がこれ以上深刻にならないように事態収拾に努めつつ、一方、不測の事態を回避するための手順について話し合いが進むであろう。しかし、それでも中国は南シナ海の軍事基地化を進めるであろうし、米国は日・豪など同盟諸国やASEAN諸国のうち米国と緊密な関係のある国々と協力して示威行動を進めようとするであろう。それに対し中国も、南シナ海に入ってくる米国の海・空軍に対する警戒監視行動を進めつつ、ASEAN諸国に対して中国と態度を同調し得る諸国との協力を進めてくると予想される。

国際社会の不安定要因に対応するには

以上のことをトータルで概観すると冷戦が終焉して四半世紀が経ち、この間、核大国のロシアと経済大国になりつつある中国が軍事力を使って国際法に基づく秩序を乱し出し、しかし国連安保理が機能せず、軍事力だけでなく、兵器移転、原子力拡散、資源エネルギー(特に、石油、LNG)の取引、及び財政・投資・貿易などを総合的に駆使して大国の野心がいよいよ顕在化し、相対的国力の後退がみられる米国のリーダーシップのみに依存できない世界が見え始めている。

米国とその同盟国(欧州や韓国)との関係もかつてほど緊密ではなく、結局米国にとって日本が最も信頼できる同盟国になっているが、その日本は米国と一緒になって武力を行使できる状況にはない。しかし、米国との同盟国(日・豪など)や友好国との有志連合的な連携を強化し、米国の持つ機能を一部相殺しながら国際社会の不安定要因に対応していかなければ国家の生存も危うくなるという事態はいずれ生起するであろう。

そのための国内体制をどのようにして整えるか。日米ガイドラインと安保法制だけで日本の安定と繁栄が維持できるのか、真剣に考える時期がきている。2016年に日本はサミットの議長国、国連安保理非常任理事国、アフリカ開発会議主催国、日中韓首脳会談議長国であり、国内経済だけでなく外交・安保も忙しい。

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