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【連載】 国際問題と日本の選択
拓殖大学特任教授/安全保障スペシャリスト  森本 敏

もりもと・さとし
1941年生まれ。防衛大学校卒。防衛庁、外務省、野村総研主席研究員、拓殖大学海外事情研究所長兼同大学・大学院教授を経て現職。その間2012年6月より12月まで防衛大臣歴任。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。近著に「武器輸出三原則はどうして見直されたのか」(海竜社)など多数。

ロシアのシリア攻撃とその意味合い

ロシアのプーチン政権は9月30日、ロシア上院がロシア軍の海外派兵を承認した後、直ちにシリア空爆作戦を開始した。9月28日にニューヨーク国連総会に出席していたプーチン大統領がオバマ大統領との首脳会談において、シリア内のISIL(イスラム国家)に対する米・欧・アラブ諸国の連合作戦をロシアを含めた形で国連安保理決議に基づいて実施しようと提案し、米国側がこれを完全に拒否したので、プーチン大統領は帰国後、ただちにシリア航空攻撃を決断したと伝えられる。

しかし、ロシアはSu-24、Su-25、Su-30、Su-34などの作戦機を使った航空攻撃作戦を開始するよりも前に、シリア内のラタキア近郊フメイミーム飛行場に攻撃ヘリやアントノフ輸送機を使ってコンボイ方式で戦車・装甲輸送車・兵員などを輸送していたことから見ると、米ロ首脳会談の前にシリア攻撃を決心していた可能性もある。

ロシアの狙いと目的

今回の作戦に関するロシアの狙いは、

(1)シリアから大量に流出する難民問題に直面している欧州諸国の共感を得て、今まで米欧・アラブ諸国の連合作戦で進めてきた対ISIL空爆作戦をロシア・シリアなどを加えて共同作戦でやろうと誘いかけ、米・欧・アラブ諸国を巻き込んでシリア作戦に対するロシアの介入を図る。また、そのことにより反米感の強いロシア国民の一層高い支持を得る

(2)ISILを攻撃対象にすると称して、実際にはシリアのアサド政権と緊密に連携を取りつつ攻撃目標の中に反シリア政府勢力である自由シリア軍(米欧・アラブ諸国がシリア内における地上作戦を支援している反体制勢力)を攻撃し、アサド政権にとって有利な政治・軍事的状況をつくってアサド政権の生き残りを狙い、米国に代わって中東における外交的指導力を発揮する

(3)これらを通じてクリミア・ウクライナ情勢によって制裁を受けているロシアが中東における影響力拡大を図り、地上軍を送れそうにない米国に代わって中東地域におけるイニシアティブをとる

ことにあるものと推測できる。

中露の力による国際秩序の現状変更は明らか

現実には、ロシアの航空攻撃は9月30日以降、連日のごとく行われており、その目標もISILやヌスラ戦線だけでなく自由シリア軍の活動地域を含めてシリア北部一帯に広がっているようである。ロシアは米欧・アラブ連合軍のシリア攻撃については国際法違反と非難しておきながら、その一方で、今回の攻撃はシリア政府の要請に基づく作戦であり合法であると強調しているが、シリア内の反体制勢力にも無差別攻撃をするロシア軍の行動は国際社会から受け入れられないであろう。

米欧諸国の中にはロシアの軍事作戦が既にシリアのアサド政権存続を狙った受け入れがたい行為であると非難しているが、双方の立場は折り合いがつかず、議論の応酬に終わりそうである。いずれにしても、ロシアがクリミア・ウクライナやシリアで行っている軍事介入と中国が南シナ海において行っている軍事介入とはいずれも国際秩序に対する力の現状変更であり、これが国際秩序を根本的に混乱させている。

米国はロシアに対して、シリア内における米欧・アラブの連合作戦を妨害しないこと、自由シリア軍などシリア内の反体制勢力を攻撃しないようにすることを求めつつ、その一方で、シリア空域内においてロシア軍機との衝突回避をするための協議をロシアと始めた。

これは米ロの国防省関係者がテレビ電話で協議する形で10月1日に行われたが、トルコ外務省は10月5日にロシア空軍機がトルコ南部ハタイ上空に領空侵犯したと抗議しているところを見るとシリア及びその周辺空域における作戦機の衝突回避はあり得るシナリオであり、狭い空域内における航行活動は危険でさえある。

更に、深刻な問題はロシアのシリア攻撃が航空作戦のみに限定されるかどうかは疑問なしとしないところであり、艦艇から巡航ミサイル攻撃も行っているし、今後、既にシリア内に輸送しているロシア地上部隊を使用するとなればシリア内の内戦状況は一層深刻になろう。そうなると米欧・アラブ諸国とロシアの間で不測の事態が発生しかねない。しかも、現在のシリア情勢をロシア軍だけで早期に解決できるとは思われず、ロシア軍の介入が泥沼化して、中東全域が紛争状態に巻き込まれるような状況もあり得る。

プーチン大統領にとってはリスクが高く短期作戦で収まりのつく勝算のある作戦とは思えないし、また、ロシア軍が強化され軍事的に性急な作戦を強行すると、死に体状態にあったアサド政権が生き返ってくることにもなり、スンニ派住民に対する虐殺行為が再開すれば、事態は更に深刻化し、欧州へのシリア難民が増加する可能性もある。

欧州には、シリア難民だけでなく、中東・湾岸・北アフリカからの難民流出が増加し、年末には100万人を超えるとも言われる。

したがって、欧州にとってはロシアのシリア介入を停止させるか、できなくても、アサド政権の勢力回復だけは防ぎたいところであろう。鍵は米国が今後、どういう政策に出るかである。

日露関係への深刻な影響

このシリア情勢が日露関係に与える影響にも深刻なものがある。ロシアのシリア攻撃の背景には、冷戦後にロシアが超大国から滑り落ち、米国だけの一極世界になったことへの恨みがある。すなわち、ロシア人のナショナリズムの根底には強い反米感があり、

米同盟にもそれが向けられていることを忘れてはならない。

 しかし、日露関係は言うまでもなく、北方領土問題を解決して平和条約を締結することに究極の目標がある。日本にとって北方領土問題を解決することは戦後最大の外交案件であり、いかなる国難があろうとも、領土問題を解決して、日露平和条約締結にこぎつけなければならない。

一方、ラブロフ外相は、日露外相会談(9月22日)後の記者会見で、「北方領土については話していないし、対話の対象でもない」と言い、北方領土問題は解決済みという態度である。プーチン大統領は日本を知っており、強硬な発言はしていないが、2人の考えていることに差があるとは思えない。

ロシアはこのところ、メドベージェフ首相やトカチェフ農業相、ソコロフ運輸相などの北方領土訪問や北方領土のインフラ整備・地域開発・予算の増加・人口流入・投資の増加などを進めている。日本漁船の拿捕(7~8月)や四島交流、自由交流、北方墓参の中止、中露共同軍事演習、中露間の資源開発協力など領土占領の既成事実化も進んでいる。

しかし、日本としては忍耐強く、日本の持っている外交上のテコを最大限に駆使しつつ、あらゆる機会を使って首脳間の対話を続け領土交渉の糸口を模索する必要がある。そのためには日本のもつ経済的なパイだけでは不足である。

シリア問題でも米国との間を取り持ち、ロシアに対して率直に注文できる立場を利用して、欧米を始めとする国際社会の懸念を伝える努力をすべきである。また、米国との同盟関係強化を図りつつ中国とも良好な関係を維持しておくことが求められる。

ロシアが国際社会において強いリーダーシップを発揮し、プーチン大統領が対外的に政治的テコを発揮するためにも、日本との良好な関係を維持発展させておくことが必要であるとロシアに実感させることが、今後の日露関係を動かしていく要点である。

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