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【連載】 国際問題と日本の選択
拓殖大学特任教授/安全保障スペシャリスト  森本 敏

もりもと・さとし
1941年生まれ。防衛大学校卒。防衛庁、外務省、野村総研主席研究員、拓殖大学海外事情研究所長兼同大学・大学院教授を経て現職。その間2012年6月より12月まで防衛大臣歴任。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。近著に「武器輸出三原則はどうして見直されたのか」(海竜社)など多数。

南北間DMZにおける地雷爆発事件とその意味

事件発生後、韓国国防部戦備態勢検閲団と国連軍司令部軍事作戦委員会特別調査チームが合同現場検証を行い、木箱地雷の構造、材質や地雷設置位置(韓国側の方が高い位置にあり、北朝鮮側が低い位置にあるので洪水などのために地雷が移動したとは考えにくい)などを調査した結果、木箱地雷は北朝鮮が意図的に埋設したものと判断し、その旨を韓国国防部は8月10日に公表した。同時に、韓国軍は同様の地雷が敷設されていないかDMZ付近を調査したが新たな発見はなかった。

この事件の原因については後日、南北交渉を通じて地雷爆発により韓国兵士が重傷を負ったことについて北朝鮮が初めて遺憾の意(謝罪の意を込めて)を表明したので、北朝鮮側が故意に埋めたものと受け止められている。

南北間のDMZ(2キロメートルずつ計4キロメートル。場所によって若干異なる)の中間線には標識柱があり、南北朝鮮ともそれより自国側に、それぞれ鉄条網を引き、それより内側に多数のGP(監視哨)を設置している。南北の鉄条網の間隔はおおむね700~800メートルであり、両軍兵士は中間線と鉄条網の間で自国側のDMZ内をパトロールしているが、中間線を越えることは休戦協定及び南北不可侵合意上の違反行為である。

もっとも南北ともDMZ内に地雷を敷設しており、パトロール兵はその位置を知っているが、相手側の地雷位置は分からず、一般に韓国側にとって地雷敷設は北朝鮮側の侵入を防止するためだが、北朝鮮にとっては脱北の防止も目的としていると言われる。

韓国国防部は、北朝鮮に対し謝罪と責任者の処罰を求め、「わが軍が何度か警告した通り、北は自身の挑発に見合う対価を払うことになる」と指摘した。しかし、北朝鮮側から反応が無かったので韓国側は10日以降に、DMZ付近に設置してある北朝鮮向け拡声器宣伝放送を(11年ぶりに)再開した。北朝鮮軍はその戦力の7割を南北境界線から100キロメートル以内に配備していると言われ、この宣伝放送(主として、北朝鮮側体制の嘘を指摘)は北朝鮮軍兵士への心理的効果が大きいと考えられている。

しかし、14日に北朝鮮は国防委員会政策局談話で地雷埋設を全面否認し、韓国側の自作自演であると主張した。更に、20日になって北朝鮮はDMZ周辺の京畿道漣川郡に14.5ミリの高射砲1発、DMZの南側に76.2ミリの直射砲3発を発射したが、これはいずれも韓国軍の背後に威嚇目的で砲撃したもので、韓国軍もこれに反撃したが、双方に被害は無かった模様である。

その直後、北朝鮮側は板門店の南北連絡官を通じて、金養建(キム・ヤンゴン)朝鮮労働党統一戦線部長名義の書簡を韓国大統領府、金寛鎮(キム・グァンジン)国家安全保障室長に送付し、関係改善のため努力する意思があると表明し、48時間以内に対北朝鮮宣伝放送を中止し、拡声器などの設備を撤去しなければ軍事的行動を開始すると警告した。8月20日、午後4時56分(現地時間)のことである。

韓国軍はこれに対してDMZ北側500メートルの地点に155ミリ自走砲18台(29発)で砲撃したが、北朝鮮側の被害は不明である。北朝鮮は同日、党中央軍事委員会の非常拡大会議を招集し、21日午後5時には前線地帯に準戦時態勢を指令した。このため米韓合同司令部はウオッチコン(対北朝鮮情報監視体勢)を3から2に格上げして米韓連合で警戒体制をとった。特に、北朝鮮は準戦時態勢として前線の砲撃部隊を2倍に増やし、北朝鮮西部海域に揚陸艦10隻を待機させ、潜水艦部隊(約70隻保有)のうち50隻を即時運用状態においた他、特殊部隊を即応体制にした。そのため韓国軍も非常態勢を取り、米軍はB-52爆撃機やステルス戦闘機をいつでも発進できるようにするなど緊張関係の高い状態となった。

北朝鮮は、その一方で21日午後には、金養建(キム・ヤンゴン)朝鮮労働党統一戦線部長名義の通知文で金寛鎮(キム・グァンジン)国家安全保障室長との協議を提案した。そのため韓国は同日午後6時、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長との接触を提案する通知文を北朝鮮側に送付した。22日には北朝鮮が黄炳瑞総政治局長と金養建部長、韓国側は金寛鎮国家安全保障室長と洪容杓(ホン・ ヨンピョ)統一部長官のいわゆる「2+2」で協議することに合意し、同日午後6時半から「2+2」南北高官協議が開始されたものの、23日午前以降10時間に及ぶ協議は合意に至らず中断し、それ以降、24回の実務レベルでの交渉を含め合計43時間にわたる交渉の結果、25日午前0時55分、双方は主として5点について合意した。

この間、北朝鮮側の代表団は何回も協議を中断して平壌に戻り、また交渉に戻るということを繰り返した。合意された主要点は、

 (1)北朝鮮は地雷爆発で韓国兵が負傷したことについて遺憾の意を表明
 (2)韓国はすべての拡声器放送を25日正午に中断
 (3)北朝鮮は準戦時態勢を解除
 (4)南北は中秋節(9月27日)に離散家族再会を実現
 (5)南北は関係改善のための当局者会談を早期に開催し各種の分野の対話と交渉を推進すること

などである。

第1に、この事件は北朝鮮側の挑発事件であるが、その背後には北朝鮮が持つ中韓接近への不快感があり、これへの牽制要因が働いていたと見るべきであり、金正恩第一委員長が直接命じた、あるいは許可したものであろう。ただ、事件発生後、北朝鮮側が準戦時態勢まで取っておきながら南北協議を提案しているところを見ると、事件後のシナリオを予測していたとは思われないが、まず、韓国側の拡声器放送を停止させることを実現し南北対話の道を開くことが北朝鮮側の狙いであったと見られる。

一方、軍事的には米・韓の抑止機能の効果を考えて、これ以上のエスカレーションを断念したということであろうが、北朝鮮の挑発は、いつどういう形で起こるかも知れないので今後とも警戒を強化すべきである。ただ北朝鮮の準戦時態勢は北朝鮮軍の弱点を暴露したような状況であった。

第2は、北朝鮮が韓国との協議を働きかけ、時間が掛かったにせよ、かなり譲歩した内容の合意になった背景には、9月3日の中国主催抗日戦勝記念行事までに、南北間の緊張関係を元に戻せと中国から圧力をかけられたか、あるいは、米国が中国に働きかけたか、そのいずれもあり得ると思われるが、北朝鮮としては中国との関係に一定の配慮をしたことが今回の合意達成に影響を与えたと見ることができよう。

第3は、今回の南北緊張を鎮静化し、内容のある合意をつくり、南北間に対話の筋道を受け入れた韓国側の対応には世論調査(8月28日発表)でも65%が良かったと評価し、朴大統領の支持率が49%(前週より15%アップ)になっている。しかし、今回の事案で韓国はうまく振舞ったつもりでいるが、少なくとも米韓連合体制の抑止が機能して事態が収束されたことを理解するなら、米国の反対を知りつつ中国主催の抗日戦勝記念行事の軍事パレードに出席するなどという対応は国際感覚を疑わざるを得ない。

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