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【連載】 国際問題と日本の選択
拓殖大学特任教授/安全保障スペシャリスト  森本 敏

もりもと・さとし
1941年生まれ。防衛大学校卒。防衛庁、外務省、野村総研主席研究員、拓殖大学海外事情研究所長兼同大学・大学院教授を経て現職。その間2012年6月より12月まで防衛大臣歴任。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。近著に「武器輸出三原則はどうして見直されたのか」(海竜社)など多数。

安全保障法制がなぜ今、必要か 今年は先の大戦を改めて見直す機会が多く、われわれは過去を省みて将来を展望する気持ちに迫られている。

敗戦により明治維新以降、近代国家を築かんと奮励努力した先人の苦労と国家の栄光は微塵に打ち砕かれた。この間、大陸に進出して満州国を築き、他のアジア諸国に多大の迷惑を掛けた過ちは大きい。しかし、当時の欧米列強は、後から発展したアジアの小国が当時の先進国の仲間入りをして帝国主義路線に進むのが許容できなかったのであろう。包囲網を張って締め付けてきたので、日本はやむなく自存自衛のため、これを突破しようとして先の大戦に踏み込んだ。日清・日露両戦争で勝利した軍部の驕慢やおごりが暴走し、政治介入を強めてアジアに進出するも、誰とてこの流れを止めることが出来なかった。結果は悲惨で、わが国は甚大な損失を蒙った。

そして、終戦から5年経った1950年に朝鮮戦争が勃発し冷戦後の東西対立が東アジアに波及してきた。米国を始め西側は対ソ戦略上、欧州でドイツをNATOに組み入れると同様に日本を日米同盟に組み入れて対ソ封じ込め戦略を構築し、日本をビンに入れて蓋をして再軍備を防ぐ措置を取った1951年の対日講和条約と旧日米安保条約がそれである。しかし、敗戦から25年も経たずに日本は戦後の奇跡と言われる経済復興を成し遂げることが出来た。この基礎は先人の努力もあるが、朝鮮戦争の際の朝鮮特需と日米同盟という選択のおかげである。

中国の野心に対応できるか

冷戦期の40年間、日本は日米安保に守られ、国家の資源を経済復興に集中させ、防衛努力を最小限にしつつも、西側の一員として役割を果たすことにより東側の侵略を受けることなく、無事に乗り切った。その冷戦が終わり、四半世紀が経つ。米ソ両大国は既にかつての大国としての力はない。

代わりに中国は、1970年代のニクソン政権から現オバマ政権まで一貫して米国政権の中国政策にかかわってきたピルズベリー氏の著書『100年マラソン』が指摘するように、2049年(中国建国以来100年)までに米国を抜いて世界を制覇するという野心を実現しようとしている。

しかし、この中国に対応するためには米国の同盟国が米国と共に多国間協力体制を強化する以外にはない。安保法制は、そのための一つの法的枠組みに過ぎない。中国はかつて日本に侵略された過去の屈辱を忘れるはずはない。日本はこれから中国より受ける仕返しに忍耐強く耐え、これを排除することの出来る国家体制をつくりあげていくこと、これがわれわれが後進に残すべき遺産である。

戦後70年の機に当たり二度と戦争のない社会をつくりたいと願うなら、なおさらのこと、日米同盟を強化して周辺の脅威を排除できる体制をつくっておかなければならないのである。

安保法制の狙いは何か

すなわち、安保法制の究極の狙いは結局、日米同盟を強化して対中戦略に必要な抑止を高めることであり、更には国際社会の平和と安定に対する広範な貢献を広げることである。

より具体的には、第1に日米同盟の片務性を少しでも解消し、イーコールパートナーシップに近付けるため、ガイドラインに基づく日米安保の協力体制を強化することである。特に、存立危機事態における「武力の行使」すなわち、一般的に「集団的自衛権」と言われている問題である。はっきり言って、この「新3要件」をすべてクリアするような事態を具体的なシナリオとして示すことは余り現実的ではない。

ホルムズ海峡・米艦防護・南シナ海といった例も挙げられるが、それが新3要件を満たすような事態になるときには、もっと広範で深刻な事態が生起することもあり得る。こうしたシナリオは議論しても良いが具体的に示すことは賢明でない。シナリオを示すことにより関係国に不要な警戒心を与え、対応策を講じられることはかえって国の安全保障を損なうからである。

第2は、国際社会で不安定状況が発生し、米軍や多国籍部隊が国際の平和と安定のために活動するに際し、日本がこれを事態認定して国会の承認を得て後方支援活動(現に戦闘が行われている現場以外の場所において)を行うための法的枠組みをつくることである。

今まで、周辺事態法や特別措置法で対応してきたものを見直し、前者は、周辺事態法を改正して重要影響事態法を制定し対象や地域を広げること、後者は、現在はいつ、如何なる事態が起こるか予期できないので、それに備えるための特措法(テロ対策特別措置法、イラク特別措置法、補給支援特別措置法は既に有効期限が終了している)作成のリスク(政治的リスク、時間的遅れ、自衛隊の体制整備の遅れ)を防ぐため国際平和支援法を制定することが目的である。

第3は、現行法の不具合を改正し、更に新たな対応のための法体系をつくることである。前者の例は、過去23年の実績と教訓を踏まえたPKO法の改正(駆け付け警護や非国連統括型の国際的な平和協力活動など)であり、後者は邦人などの保護措置、米軍などの部隊の武器などの防護といった問題に対処するための法体系である。国際法上の合法性や、国会の関与については十分に担保しており、内閣だけの任意の判断で活動することは緊急やむを得ない場合を除いてはあり得ない。

こうした活動を履行するに当たり、自衛官へのリスクはあるが、これを出来る限り極限するためにあらゆる措置を取る必要がある。これは主として法制上の問題より、法制が成立してからの政府の努力内容である。

憲法解釈については、国際法上の集団的自衛権を行使しないが、新3要件を満たす限りわが国を防衛するために限定された武力の行使を行うことは従来の憲法解釈の当てはめ方を再整理した結果、可能という考え方は無理のない解釈と考える。

立法府の役割は何か

結局、安保法制の意味するところは、日本が今までに十分成し得なかったこと、特に、(1)日米同盟の片務性を少し解消して日本の防衛のために活動する米国に協力・支援できる範囲と幅を広げること(2)国際平和と安全のために活動する外国軍に対して、経費分担・難民支援だけでなく広範な後方支援を実施できるようにすること、である。

ただし、安倍総理が繰り返し強調しているように、イラク戦争や湾岸戦争のようなものに参加することは決してないし、また、後方支援も現に戦闘が行われている現場以外の場所でしか行わず、従って、「戦争法案」ではなく、むしろ、国際社会の安定化に向けた「抑止強化法案」という役割を果たす。

日本は安全保障を論じるに際し、政策を論じるのではなく、法制を論じるという特色がある。それは日本の自衛隊の活動がすべて、ポジティブリスト(法律に書いてあることは実行可能で、それ以外は実行できない)のシステムになっているためである。

しかし、本来は国家としていかなる安全保障政策であるべきかを決めて、これを法的に担保するための立法措置が取られるべきである。立法府における論議の趣旨も法解釈だけでなく、安全保障政策の在り方を説明するべきである。

こうした国会議論は憲法改正が実現しても、ますます強化されることになるであろう。問題の焦点は現実の事態に対して法律論だけで有効な安全保障措置が取れるのかという点にある。

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