月刊「政経往来」の記事から厳選してお届けします!|月刊「政経往来」xWizBiz

【連載】 国際問題と日本の選択
拓殖大学特任教授/安全保障スペシャリスト  森本 敏

もりもと・さとし
1941年生まれ。防衛大学校卒。防衛庁、外務省、野村総研主席研究員、拓殖大学海外事情研究所長兼同大学・大学院教授を経て現職。その間2012年6月より12月まで防衛大臣歴任。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。近著に「武器輸出三原則はどうして見直されたのか」(海竜社)など多数。

日米首脳会談と今後の主要課題

4月末の安倍総理訪米と日米首脳会談の成果は戦後における日米同盟や国際社会における日本の地位と役割にとって歴史的な転換期を迎えたという点で高い評価が寄せられている。

国際社会の現状を見ると欧州は経済的に順調とは言えず、ウクライナ問題や中東情勢を巡り、米欧関係は微妙な状況にある。ロシアはウクライナへの軍事介入や核問題を巡り米国と冷戦期に似た状態に戻りつつあり、対米戦略上、中ロ間の接近も顕著である。中国は経済成長が鈍化しているものの軍事力近代化は続き、海洋への進出も顕著で米国や東アジア諸国の懸念は深刻化しつつある。中国は更に、シルクロード構想を打ち出し、その資金基盤としてAIIB(アジアインフラ投資銀行)を提案しているが、肝心の日米が態度を留保している。中東・湾岸ではISILの活動が続いており、イランとの核協議が進んでいるが、サウジアラビアなどの懸念は払拭されない。米国は財政難の中でリバランス政策を進めており、2020年までにアジア・太平洋地域に海・空軍の60%を配備させようとしているが、その最大挑戦国は中国である。

日本は安倍政権になり、経済は順調に推移しているが原発・震災復興・辺野古施設・集団的自衛権・安保法制などの面で依然、世論の一部に政権への抵抗感がある中で、中国や韓国の反日政策にはムカムカする感情が広がり、双方は調和できないでいる。

一方で日本がアジア・太平洋において、もっと強いリーダーシップを取るべきだという国民感情があり、今回の日米首脳会談や総理の米議会演説を通じて、歴史認識については過去に深い反省を示しつつも、将来に向けた日米同盟のパートナーシップの在り方を力強く方向付けることが出来たことは大きな成果であった。米国民も米国を同盟国として今までに無く支持・支援する姿勢を明確にした日本に好感を持ったと思われる。総理訪米の直後に与野党議員団と共に総理訪米のフォローアップのために訪米して各地を回ったが、どこでも今回の総理訪米を高く評価する発言に出会った。

今回の総理訪米に際して公表された日米共同ビジョン声明は歴史的な前進を画するものであるが、今後、日米両国が取り組むべき課題も多く、特に日本は強い覚悟を持って声明の内容実現に向けて努力する必要がある。

第1に、日米防衛協力ガイドラインについては日米同盟を強化するための意欲的な内容を持つ方向性が示されたものの、これを実現するためには、特に日本側が安保法制を確実に成立させるだけでなく、法制に基づく対応をより効率的に進めるため自衛隊の漸進的な改革を進め、これを支持し理解する世論を醸成することが不可欠である。

海洋進出を進める中国や、挑発的行動を繰り返す北朝鮮もあり、不安定性を増すアジア太平洋においてガイドラインに基づく日米共同行動は地域の安定にとって一層重要となるが、同時にリスクやコストも増えることを覚悟しなければならない。日本がこうしたリスクやコストに耐え得る強靭な社会を構築していくことが出来るかが問われることになる。

第2は中国との関係である。アジア・太平洋の将来は日米中の相関関係に大きく依拠している。米中関係はサイバー・人権・航行の自由・核心的利益などで価値観を共有しない。中国は更に太平洋二分割論(東太平洋は米国、西太平洋は中国が共同管理する構想)を主張している。また、最近ではシルクロード構想(一路一帯=One Road,One Belt)を打ち出し、ユーラシア共栄圏に向けたグローバルなイニシアチブを取ろうとしている。AIIB(アジアインフラ投資銀行)はそのための資金管理機構であろう。

しかし、米国はAIIBの(1)ガバナンス(統治構想) (2)ドミナンス(人事や意思決定システムを中国が独占) (3)米議会における慎重論などの理由があり、参加の意図表明をしていない。日本も、(1)ガバナンス (2)資金運営や意思決定プロセスの透明性の低さ (3)負債処理要領の不透明性 (4)ADB(アジア開発銀行)への影響などがあり、慎重論が強い。一方、AIIBを成功させるためには中国にとって、日・米両国の参加は不可欠である。日本を参加の方向に向けて、米国に説明させること。これがバンドン会議で習近平国家主席が日中首脳会談に応じた背景であった可能性はある。日本は今後、AIIB参加のクライテリアを日米間で緊密に連携し、確実な共同歩調を取ることが求められる。

第3は、中国の海洋進出、特に南シナ海における埋立て施設(飛行場・レーダー・港湾・補給施設など)工事が急ピッチで進んでおり、米・欧(4月15日のG7外相会議の共同宣言)やASEAN(4月28日のASEAN首脳会議の議長声明)を始め、施設埋立て工事に対する強い懸念が表明されている。いずれ埋立て工事が完成すれば中国は南シナ海のほとんどをカバーする9段線に沿ってADIZ(防空識別圏)を設定するであろう。エアカバーによって南シナ海における海軍活動の優位を確保し、各国の行動の自由を阻止することにより南シナ海を中国の聖域にするためである。中国は、埋立て工事を撤回する考えはなさそうであるが、ADIZが設定されると日・米・豪・韓やASEAN各国の南シナ海における航行の自由は大きく脅かされる。これに対して外交努力だけで対応できるのか。日米両国の取るべきイニシアチブが期待される。

第4は日米間のTPPである。TPPの日米交渉は自動車、農産物など懸案事項の話し合いが最終段階に来ている。一方、問題はTPPを批准する権限を有する米議会におけるTPA(貿易促進権限)の審議である。

TPAは上院での動きは収まりつつあるが、下院では今なお、民主・共和両党の駆け引きが続いている。TPPは日米両国がマーケットアクセスを中核としたルールメイキング(法的枠組みづくり)を進め、アジア太平洋における政治・経済面で主導的役割を果たすという戦略的意味を持つ。将来は中国もTPPに加盟しなければ経済発展の途が無いことを理解しており、中国もTPPの受け入れ可能な国内改革が迫られる。その意味で日米間の緊密な協調は不可欠である。

第5が今後の日米韓関係、その中での日韓関係の進展である。日米韓の緊密な連携が朝鮮半島の平和と安定にとって不可欠であることは言うまでもない。半島有事の際、韓国にとって日米両国の協力無しにやってはいけない。にもかかわらず、韓国政権は経済面で中韓、安保面は米韓の関係に依存し、日韓関係は慰安婦問題にこだわって首脳会談さえ応じてこない状況が続いている。

安倍政権は首脳会談についてオープンであり条件無しに応じる用意があるが、韓国側の対応には論理性が見えない。中国経済の成長が鈍化し北朝鮮の挑発は一層、顕著となり韓国内での政権運営もうまくいかない状況が続いているが、韓国政権は依然、強硬である。日本は法的に妥協すべきものはなく、当面は日米同盟や日中関係の改善に努めつつあり、結局、韓国の孤立化が進んでいる。6月22日は日韓基本条約締結の50周年に当たるが、日韓関係の改善は望めそうになく、米国も韓国に日韓関係の改善を促しているが効果は見えない。この日韓関係の進展をどのようにして実現していくかが、今後の最重要課題の1つであろう。

経営者の味方Wizbiz

セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス・カード

田町・品川の貸し会議室|WizBizの会議室情報

名刺などのデータ入力代行サービス|WizBiz

円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz